税効果会計とは
税効果会計とは、会計と税務にズレがある場合において、法人税等の額を適切に期間配分することにより税引前当期純利益と法人税等の額とを合理的に対応させることを目的とする会計上の手続きいいます。
法人税の額を適切に期間配分とは
税効果会計が適用されている場合には、「法人税等調整額」という項目により、税引前当期純利益から差し引かれる法人税等の額が調整されています。法人税等の額を適切に期間配分とはこれを意味します。税効果会計はこれだけではないですがこれが一番の特徴です。
↓税効果会計を適用していない損益計算書

↓税効果会計を適用している損益計算書

税効果会計の対象は一時差異
税効果会計は会計と税務に差異がある場合に行う会計処理です。そして税効果会計の対象とする差異は一時差異です。
一次差異とは、法人税額の計算に際して加減算調整された会計と税務のズレで、なおかつ、いずれそれが解消するものをいいます。
一時差異の分類
一時差異にはその差異が解消する時に課税所得を減額させる効果をもつものと課税所得を増加させる効果を持つものがあります。解消時において課税所得を減額させるものを将来減算一時差異、解消時において課税所得を増額させるものを将来加算一時差異といいます。さらに、スケジューリング不能な一時差異に分類されます。
一時差異の把握方法
税効果会計が対象とする一時差異の把握方法には資産負債法と繰延法の2つがあります。
どちらでもほぼ同じ結果となりますが若干異なります。現行制度会計上、資産負債法が採用されています。
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- 資産負債法と繰延法
税効果会計が強制適用となる大会社
税効果会計の適用が強制されるのは主に大会社です。大会社とは、具体的には株式公開企業などです。
株式公開会社とは、株式を公開していて公認会計士の監査を受ける会社を言い、株式公開会社は金融商品取引法の規定により税効果会計の適用が強制されます。
株式公開会社以外、株式非公開の非上場会社であっても会社規模が一定以上のものは会社法の規定により税効果会計の適用が強制されます。
税効果会計の処理
税効果会計の仕訳、損益計算書の表示、法人税申告書別表の記載に関してよくある事例ごと網羅的にまとめました。
税効果会計の計算Excelテンプレート
税効果会計に関しては会計学の一論点として、会計処理の面から解説されることがほとんどです。
しかし現実の会社の経理において、税効果会計を適用する場合には会計処理だけでなく、法人税申告書の別表調整についても考える必要があります。そして法人税申告書の別表調整は税理士試験における法人税法の受験範囲になっていてその受験範囲においてもかなり難解な論点として位置づけられていることから分かるとおり、かなり難解なジャンルです。
つまり、法人税申告書の別表調整についてかなり熟知している人以外には到底理解できません。
そこで、その難解な税効果会計を適用した場合の法人税申告書の別表調整を含めた税効果会計の全体像を自動集計するエクセルテンプレートを作成しました。
税効果会計のメリット
税効果会計を適用すると基本的には繰延税金資産が発生し、それが貸借対照表に計上されます。
したがって下の図解のように純資産が増加します。
純資産が増加すると自己資本比率が増加しますが自己資本比率は銀行員が融資先を判断するときの大きなポイントであるため銀行融資を受けやすくなる等のメリットがあります。
税効果会計導入の必要性とその背景
税効果会計導入の背景 ある事業年度において、重要な一時差異が発生した場合に税効果会計が適用されていないときは、一時差異の発生事業年度と一時差異の解消事業年度の両方の事業年度において損益計算書上、実効税率とはかけ離れた法人税等の額が計上されてしまいます。 なぜなのかはこちら↓ つまり、一時差異により、会社の業績とは無関係に損益計算書の最終利益である当期純利益が乱高下してしまう結果になります。これは会社の公表する財務諸表の数字を見て株式投資を行なっている投資家にとってはとても困ることです。 端的にいいますと以 ...
税効果会計の具体例
税効果会計とは、会計上の利益(税引前当期純利益)と税務上の利益(課税所得)にズレがある場合において、会計上の利益(税引前当期純利益)に見合った税金費用が損益計算書に計上(法人税等として計上)されるように、法人税等の額を適切に期間配分することにより税引前当期純利益と法人税の額等とを合理的に対応させることを目的とする会計上の手続きを言う。と一般的に説明されます。 なお、初見でこれを読んで意味が理解できる人はかなり少数だと思いますのでどういうことなのか、実際に具体例で説明してみたいと思います。 税効果会計の具体 ...
税効果会計を適用している場合の損益計算書
法人税の課税所得の計算 法人税の課税所得は、損益計算書の最終利益である当期純利益をもとに、法人税別表四において法人税法の規定による加算・減算調整を行う方法により計算されます。 なお、税効果会計を適用している場合には損益計算書に「法人税等調整額」という項目が追加されますので単純に当期純利益を使うのではなく、その分の調整も必要になります。簡単に図解で解説すると次のとおりです。 法人税の課税所得の計算の具体例 税効果会計を適用していない場合、適用している場合における法人税の課税所得の計算を図解すると次のとおりで ...
税効果会計の手順
税効果会計の大まかな手順 税効果会計の手順ははっきり言いましてかなり難しいです。したがってざっくり大まかに解説すると次のとおりです。 税効果会計はまず最初に一時差異と法定実効税率を把握するところから始めます。次にその一時差異に法定実効税率を乗じることで繰延税金資産を算出します。 一時差異が将来減算一時差異である場合には法定実効税率を乗じると繰延税金資産となりますが、一時差異が将来加算一時差異である場合には法定実効税率を乗じると繰延税金負債となります。そのうち繰延税金資産についてはその差異が解消すると見込ま ...
繰延税金資産
繰延税金資産とは、税効果会計を適用している場合において、将来減算一時差異が生じたことにより発生した法人税の前払いでその差異が解消する会計期間まで繰延処理するために貸借対照表に計上された資産です。 法人税率が引き下げられると企業業績が下がる? ここ数年ずっと法人税率の引き下げが頻繁に行われています。法人税率が引き下げられると企業側にとっては法人税の負担が減少するため普通に考えればプラスのメリットがあるはずです。 しかし、よくニュースでよく耳にするのが、法人税率引き下げによって業績の下方修正を行ったというもの ...
税効果会計導入の会社側のメリット
税効果会計導入は会社が公開している損益計算書などの財務諸表をもとに意思決定を行っている投資家にとっては言うまでもなく非常にメリットが高いものです。 しかし、実は税効果会計は導入する会社側にとっても高いメリットがあります。したがって導入義務のない中小企業であっても近年は税効果会計の導入するのが一般的になってきました。 税効果会計導入の会社側のメリット 税効果会計を適用すると基本的には繰延税金資産が発生します。仕訳にするとこんな感じ。 (借方)繰延税金資産(貸方)法人税等調整額 そして繰延税金資産とはその名の ...
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税効果会計の適用が任意の会社
税効果会計の適用が任意とされている会社とは、主に中小企業です。 中小企業については金融商品取引法の適用を受けないため税効果会計の適用は任意です。 なお、中小企業はその多くが税務会計ベースで会計処理を行っているため、会計と税務にズレがほとんど発生しないのが普通です。その結果、税効果会計を適用してもしなくてもほとんどの場合で重要な影響がない場合が多いです。 しかし中小企業といえども、重要性の高い一時差異があるような場合には積極的に税効果会計を適用するべきです。理由は次のとおりです。 中小企業とは まず最初に中 ...
永久差異とは
永久差異とは、この会計と税務のズレのうち、永久に解消しないものをいいます。永久にその差異が解消しないため永久差異は税効果会計の対象とはなりません。 永久差異の具体例 交際費等の損金算入限度超過額:会社が支出した交際費等の金額のうち、法人税上の損金算入限度額を超える部分の金額 寄付金の損金不算入額:会社が支出した寄付金の金額のうち、法人税上の損金算入限度額を超える部分の金額 損金経理延滞税等:延滞税等の租税公課については、法人税上損金とならない 受取配当金の益金不算入額:会社が受け取った配当等の額のうち、一 ...
スケジューリング不能な一時差異
一時差異とは、この会計と税務のズレのうち、いずれ解消するものをいいます。いずれ解消する差異であるから一時的な差異=一時差異です。 一時差異は将来減算一時差異、将来加算一時差異、スケジューリング不能な一時差異に分類されます。 将来減算一時差異と将来加算一時差異については↓で解説を行いましたのでこのページではスケジューリング不能な一時差異について解説します。 スケジューリング不能な一時差異 スケジューリング不能な一時差異とは、次のいずれかに該当する、税務上の益金又は損金の算入時期が明確でない一時差異をいいます ...
税効果会計の対象となる税金
会社は法人税、住民税、事業税、消費税、固定資産税、事業所税等様々な税金を課されます。このうち税効果会計の対象となるのは利益を課税標準とする税金です。 正確には利益に関連する金額を課税標準とする税金(税効果適用指針)です。 利益を課税標準とする税金とは 税効果会計の対象となる利益を課税標準とする税金の一番代表的なものが法人税です。それ以外にも民税の法人税割部分と事業税の所得割部分も税効果会計の対象となります。 図解するとこんな感じです。 住民税の法人税割とは 住民税の法人税割とは、法人税法により算出された「 ...
税効果会計が強制対象となる会社
税効果会計が強制適用となる会社は、主に大会社です。 具体的には、株式公開会社と商法上の大会社、その他会計監査人を設置している会社の三種類です。これらの会社は税効果会計の適用が強制されます。 株式公開会社とは 株式公開会社とは、上場会社とも呼ばれますが、株式市場に上場しており、株式を一般公開している会社をいいます。株式を一般公開している会社は機関投資家や個人が株主になり得ます。 株式公開会社は会計監査人の監査が義務化されています。 会社法上の大会社 会社法上の大会社とは、資本金5億円以上又は負債総額200億 ...
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繰越欠損金
税効果会計を適用した場合の法人税申告書の別表調整を含めた税効果会計の全体像を自動集計するExcelテンプレートを作成しました。 今回は繰越欠損金の税効果会計の適用について当ブログで配布しているExcelテンプレートを使って、次の三点について解説します。 税効果会計の仕訳 税効果会計適用後の損益計算書の末尾 税効果会計を適用した場合の法人税申告書別表調整 繰越欠損金とは 法人税法の制度で繰越欠損金の繰越控除というものがあります。 簡単に説明しますと、会社がある事業年度の決算で赤字だった場合には、その赤字を翌 ...
納税充当金
税効果会計を適用した場合の法人税申告書の別表調整を含めた税効果会計の全体像を自動集計するExcelテンプレートを作成しました。 今回は未払法人税等のうち事業税部分の税効果会計の適用について当ブログで配布しているExcelテンプレートを使って、次の三点について解説します。 税効果会計の仕訳 税効果会計適用後の損益計算書の末尾 税効果会計を適用した場合の法人税申告書別表調整 未払法人税の事業税部分 法人の決算手続きにおいては、法人税、住民税及び事業税の当期確定額を未払法人税等として未払計上します。 (借方)法 ...
貸倒引当金繰入超過額
税効果会計を適用した場合の法人税申告書の別表調整を含めた税効果会計の全体像を自動集計するExcelテンプレートを作成しました。 今回は貸倒引当金繰入超過額の税効果会計の適用について当ブログで配布しているExcelテンプレートを使って、次の三点について解説します。 税効果会計の仕訳 税効果会計適用後の損益計算書の末尾 税効果会計を適用した場合の法人税申告書別表調整 貸倒引当金繰入超過額とは まず最初に、貸倒引当金繰入超過額とは、法人税法に規定されている貸倒引当金繰入限度額を超えて会計上、貸倒引当金を繰り入れ ...
売上計上漏れ
設例(☓1期) ×1期に売上高計上漏れ100万円が発覚した。(実効税率は40%とする) 売上計上漏れの税効果会計の解説 ×1期の申告手続き中(決算後)に売上高の計上漏れが発覚した場合、既に×1期の決算は確定しているため×1期の売上高を修正することはできません。しかしその売上計上漏れが発覚したのが法人税の申告前である場合には、修正申告によらず税務上の課税所得を正しい金額に修正することで対応します。 この売上高計上漏れ100万円は当期の課税所得に加算され当期の法人税等の額を増加させますが、×2期 ...
特別償却準備金の積立て・取崩し
設例(☓1期) 剰余金の処分により特別償却積立金を100万円積み立てた。(実効税率は40%とする) 税効果会計の解説 剰余金の処分により特別償却積立金100万円を積み立てた場合、積立時に積立金の積立額に相当する損金が発生し課税所得が減少しますが、積立てを行った翌期以降に積立金の取り崩しが行われること通じて将来の課税所得が増加します。したがって準備金の積立は将来加算一時差異に該当します。 税効果会計の仕訳 積立金の積立額100万円に40%を乗じた40万円について繰延税金負債を計上 ...
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